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2016年12月14日 (水)

シークレット・オブ・モンスター

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TOHOシネマズシャンテで「シークレット・オブ・モンスター」を観てきました。

1918年冬のパリ郊外にアメリカ国務次官補の父、4ヶ国語を操る美しい母、そして天使のように美しい息子プレスコットが越してきた。彼はのちに独裁者となるのだが、彼の幼少期に何が起きたのか…

原作はサルトルの「一独裁者の幼年時代」。この題名で人が呼べないからってこの邦題はひどくないですか。そして予告でのすごくドラマチックな感じ(挿入曲がものすごくドラマチックなせいか?)に軽く騙されてきましたが、本作は実に淡々としていて開始10分後には響き渡るいびきの音よ。

しかしその淡々さも吹き飛ばしてしまう、プレスコット役のトム・スウィート(すごい名前だなあ)の美少年ぶり。まるで「ベニスに死す」のビョルン・アンドレセンのような怪しい美しさです。 ボロい大きなシャトーに絶世の美少年…デカダンだわあ。

以下ネタバレですので、映画を観る予定の方は絶対読まずに劇場へ行って下さい。

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うちの息子の保育園で感じた経験上、女の子は至極早い段階から女である自分を意識する事が多いように思いますが、男の子はお母さんと手を繋がなくなる頃、小学校低学年くらいでしょうか。その微妙かつ難しい年頃の少年の、よくある小さな犯行にいちいちしくじってる両親と大人が独裁者への英才教育やってる話なのかなーと。父親からは暴力で相手を屈服させる事を。母親からは気に入らない人間は切り捨てていく事を。神父様からは執拗に責める方法を。

ところが、それが全部ではなく一部だと知ったのは、なんとエンディングの3分ほど前。ほんの少ししか写らない独裁者となったプレスコットの変わり果てた(失礼❗️)姿。頑なに切る事を拒んだ髪はハゲ上がり、その代わりにひげをたくわえた姿は美しめのレーニンといった風情。

しかしその顔は❗️

両親の親しい友人のチャールズに生き写しではないか。(キャストもチャールズ役の人の2役ですので。)

なるほど、ここに来てはじめてちぐはぐでまるでジグゾーパズルの違うピースを無理矢理嵌め込んだような違和感が吹き飛びます。プレスコットは不義の子であり、それを父親も知っていて浮気をし、母親も父親を愛しておらず、信仰深いのではなく宗教に逃げている。そしてプレスコット自身も知っていて、両親の愛をはかり、許されない自分の存在を正当化するため宗教を拒絶する。まあこの部分はムッソリーニを参考にしたそうですが、冒頭のシーンでのプレスコットはクリスマスの聖劇の練習のため天使のいでたちです。

原作を書いたサルトルは実存主義。大学の時の哲学の授業でかじった頼りない記憶によれば、人間は何かを成すべく生まれたのでなく、その生の中で成すべきものを探していくという感じ…だったかな…エンピツは書くために製造されるが赤ちゃんの使途は決まっていない。天使だったプレスコットは独裁者となるべく生を受けたのではない。不幸にも独裁者として生きる術を学び、自分の存在をかろうじて支える力として独裁を選んでしまったのだろうか。誰も自分を愛さないのであれば、ひとりで生きるしかない、誰も信じない。

そしてもう1つのこの映画の側面として、プレスコットは当時のドイツの置かれている状況の擬人化とも言えましょう。第一次世界大戦に敗れたドイツは莫大な賠償金に苦しみ、産業は分断され国民は疲弊し、その僅かに残ったプライドを過度なナショナリズムをうたったナチス、ヒットラーの指示へと向かわせてしまった。映画の冒頭、アメリカの重職である父親と経済学者のディスカッションで「ドイツを追い詰めるべきではない」との意見を一笑しヴェルサイユ条約を締結させたが、これは必ずしもドイツの未来のための手段ではなく戦勝国の利益のためのものであったのだから。

いつもそうだ。アフガニスタンのアフターケアを怠りタリバンの台頭を許し、イラクの残党はISの中心部となった。そもそも戦争自体が許されないものだという事は大前提であるが、戦争ののち敗戦国を水に落ちた犬のように棒で打ち据え(犬好きなのでこの表現は辛い)スキップしながら一目散に帰るのではなく、一緒に生きていくための助力を惜しまないことこそ、却って自分らの大きな利益に結びつく事に気付いてもいい頃でしょう。

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